1:空手の基本と体幹
藤田君の順突き(追い突き)です。かなりのスピードです。実はこのスピードに体幹の秘密があります。下は空手初心者さんの追い突き。
藤田君との違いは明らかですね。上体がのけぞっています。彼女は藤田先輩を見習って全力で脚を高速で移動させました。人間も物体も、移動を始めると進行方向とは逆方向に慣性力という力が働きます。彼女が必死で高速移動しようとした結果生じた慣性力が赤の矢印です。上体が下半身の移動速度についていけずその後ろ向きの慣性力によって後方に引っ張られてのけぞってしまっているのですね。さらに止まった瞬間今度は前方方向に慣性力が働きます。車で急ブレーキをかけると前のめりになりますよね。あれです。彼女も同じように、止まった瞬間右のように前のめりになってしまいました。フニャフニャですね。
ところが藤田君はあれだけの高速移動をしていてかなりの慣性力がかかっているにもかかわらず、彼の上体はびくともせず非常に安定しています。なぜか。それは藤田君の上体にかかった後方への慣性力に負けない瞬間的な筋力を腹筋など主に体幹前方の諸筋肉が発揮し、逆に止まった時は前方への慣性力に負けない体幹後方の諸筋肉が瞬間的に筋力を発揮したのです。そして空手に限らずどんな運動でも、前後移動だけではなく左右や斜めあらゆる方向に移動しますから、当然あらゆる方向からかかる慣性力に抗する体幹力が必要なのです。逆に体幹が弱ければスピードのある動きができずバランスも崩れるとも言えます。
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2:何のための練習か
空手道場や空手道部で右のような練習を見かけた、あるいはやった経験はあるでしょうか。一生懸命壁を"押して"います。ところがこれでは後ろ足が床から得た反発力がパワーとして拳に伝わっていません。肩を支点にテコの原理が働き、パワーがお腹の方に流れてしまっている状態です(赤い矢印)。これは体幹筋、特に腹筋群が弱く体幹が崩れてしまっているためです。背中方向に逃げてる人も時々います。洪水は、堤防の弱い所から崩れて溢れ出るのです。
足から伝わるパワーが確実に拳に伝わると右の藤田君のようになるはずです。壁ではなく動くものであれば相手の方が動きます。自分よりも重い物であってもパワー次第で動かすことができます。人間で試してみよう。壁は堅く絶対に動きませんから、拳から壁に伝えられたパワーはほとんど拳に返ってきます。その返ってきた反発力で体が跳ね返されるのです。もし跳ね返らないようにむりやり体を押し付ければ手や肩関節がぶち壊れることでしょう。
→力を伝える体幹 - ダイナミックコアスタビリティ