「藤田のくそやろー!」藤田の脅威の体幹をまざまざと見せつけられた木下は、脳裏から藤田の姿がはなれないままあてどもなく夜のキャンパスをうろついていた。
いつの間にかグラウンドに近づいていた。サッカー部もアメフト部もとっくに引き上げ誰もいない。木下は自販機で缶コーヒーを購入し照明もついていないスタンドのベンチに腰掛けた。プルトップに指をかけた瞬間グランドの黒い人影に気づく木下。あの四角い頭の形。まちがいない。藤田だ。暗いが何をやっているかははっきりと見える。ややしゃがんだ状態から両手を大きく振り上げて前方へジャンプ。中空で大きく体を反ったと思うと着地直前で瞬間的に今度は逆に体をくの字に曲げてまえかがみになって着地。跳んだ距離にも驚いたが、跳ぶ前と全く同じ体勢で微動だにしない見事な着地にもっと驚いた。そしてそこからさらにジャンプを立て続けに5回ほど繰り返すがすべての着地がピタッときまる。まったく狂いのない藤田のボディーコントロールに木下はあぜんとした。自分が立ち幅跳びを全力でやればあんな安定した着地、しかもそれを連続で行うなど無理だ。まず着地した瞬間後ろへのけぞって地面に手を着くか前のめりに倒れる。それに空中で体を反らした状態から一気にくの字に折り曲げるあの藤田の動き・・・・・。
気がつくと藤田は鉄棒の前に立っていた。一番高い棒に飛び掴まる藤田。ぶらさがったまま動かない藤田。・・・・数秒後突然脚をのばしたまま前方へすばやく振り上げそのままLの字になったまま静止。上体もぴんと背筋がのびたまま、というか、なんだ?体幹だ!あの安定した体幹!ぴたり静止したまま数秒後、ゆっくりと脚を下ろす。・・・・数秒後突然脚をのばしたまま前方へすばやく振り上げLの字静止。どうやら藤田はタイマーに反応して動いているようである。それを10数回繰り返し藤田は着地した。
藤田が去った後、虚無感におちいった木下が藤田と同じマネを一応は試みた事実も一応書いとかなければならない。立ち幅跳びでは着地でバランスを崩しケツから崩壊、鉄棒では一発目でバランスを崩して手がすべりやはりケツから墜落。仰向けに大の字になった木下のうつろな目が見つめる先には満天の星空が笑って・・・・いや輝いていた。