1:筋肉の構造と筋繊維
筋繊維とは
筋肉は数百から数千本の繊維状の細胞の束でできています。その繊維状の束を筋繊維と言います。そしてその筋繊維には大きく分けて
タイプl(遅筋繊維)とタイプll(速筋繊維)
の二つのタイプがあります。
タイプl(遅筋繊維)
いわゆる遅筋繊維と呼ばれるのがタイプl筋繊維で、力の低いスピードを伴わない動き=筋収縮速度が遅い筋繊維です。ST繊維とも言います。有酸素性能力が高く「持久力担当」の筋繊維です。色が赤身なので赤筋とも言います。
タイプll(速筋繊維)
いわゆる速筋繊維と呼ばれるのがタイプll筋繊維で、遅筋とは逆に力の強いスピードを出す動き=筋収縮速度が速い筋繊維です。FT繊維ともいいます。遅筋と違って持久力がなく疲労しやすい筋繊維です。色が白身なので白筋とも言います。
また、タイプllはさらにタイプlla、タイプllbに分けられます。
- タイプlla・・・タイプl同様遅筋と速筋の両方の性質を有していて、普段の筋肉の使い方トレーニングによってどちらかの性質に偏っていきます。例えばマラソン選手のタイプllaは遅筋より、スプリントの選手なら速筋より。
- タイプllb・・・タイプllaよりも有酸素性能力は低く持久力はないが収縮速度は速くまさに「パワー」担当の筋繊維。
タイプllaは遅筋と速筋の間の性質なので、色も中間のピンクっぽい色だったりします。
ではこれらの筋繊維の特性と筋トレのとの関係性について解説していこう。
2:速筋・遅筋の働き方とサイズの原理
伸張性収縮と太くなる速筋
速筋の「パワー担当」とは、たんに収縮力が速くスピードや強い力を発揮できるというだけではありません。前ページの「筋肉痛のメカニズムと伸張性収縮」にでてきた、「伸張性収縮」つまり「筋肉が、動きに対してブレーキをかけるために、伸ばされながらも収縮しようとする状態」のときは、動いていた体をストップさせて急激に安定させるために
強く速い収縮力が求められるため速筋繊維が強く働き
筋トレの時も、「ゆっくり下ろすと筋肥大に効果的」というのは、高負荷でゆっくり下ろすと伸張性収縮、つまり
重さに負けないためにゆっくりだけど実は速筋繊維が速く強い収縮を続けている
状態なので速筋が働いています。
太くなるのも実は遅筋ではなく速筋の方
なのです。
サイズの原理と遅筋
一方遅筋もたんに遅い収縮というだけではなく、速筋とは逆の挙げるとき、つまり短縮性収縮のときに働きます。
速い動きの時も速筋だけではなく遅筋も働いています。これはインターバルとセットのメカニズムのページや筋肉発達メカニズムのページに出て来た「なまけものの筋繊維くん」の正体は実は速筋繊維なのです。つまり普段は疲れやすい速筋繊維くんはなかなか働こうとせず、持久力のある遅筋繊維くんばかり働いていますが、いざ強い力が必要になってくると「がってんだ!」とばかりに速筋繊維くんたちが力を発揮します。
このように「遅筋→速筋」という筋繊維の働き順の原理をサイズの原理といいます。
「脚めっちゃ速くて運動神経いいのにけどマラソンは苦手ですぐ疲れる」みたいなヤツがクラスに必ず一人はいたと思いますが、彼らの筋肉は速筋が多くて遅筋が少ないため、サイズの原理が効率的に働かないのかもしれませんね。
次は速筋、遅筋それぞれのトレーニング方法について。
3:速筋・遅筋をそれぞれ鍛えるトレーニング方法とは
サイズの原理で解説したように、多く動員される順番はあるものの、遅筋だけ、速筋だけがそれぞれ単独で働いているという事ではありません。なのでそれぞれピンポイントで鍛えると言うのは無理ですが、筋トレにおいては
- 速筋繊維を優位に効かすには、速筋繊維の働きの所で解説したように高重量でゆっくり下ろして伸張性収縮を効かせる。
- 逆に遅筋繊維を優位に効かすには、サイズの原理を利用して軽い負荷を遅いスピードで挙げ下げし、切り返しもブレーキが強く働かないようゆっくりスムーズに行ない速筋繊維くんを呼ばない。
と言う考え方でトレーニングメニューを組んでみよう。
といっても太くなるのは主に速筋繊維の方ですから、筋肥大をめざすなら速筋に効かす重めのトレーニングがメインになります。
しかし「太くせずに速く動けるようになりたい」という場合もあります。こんな時は、軽い負荷であっても速く動けば速筋繊維が速く動員されます。このようなトレーニング方法に「プライオメトリクストレーニング」というトレーニング方法があります。
→プライオメトリクストレーニングと神経系についてくわしく
また、速筋繊維にもまったく有酸素能力がないというわけではありません。なので軽い負荷で高回数のトレーニングメニューで筋持久力・スピード持久力を鍛えることもできます。
→筋トレの負荷・回数・セット数の決め方
結び
各所に出てくる"筋繊維"の秘密がようやく明らかになりました。
さて次は筋肉痛や伸張性収縮にも関係ある筋肉の「表と裏」の動きの関係について学ぼう!