「藤田のやろう・・・・」その日の主将木下はいつもとちがっていた。確かに藤田のあのレンガ粉砕には正直驚愕させられた。木下もブロック割りの経験はある。しかししっかり固定したブロックを上から全体重を乗せた突きでやっとである。板割りも固定した板に対し腰を低くした前屈立ちからしっかりねらいを定めて利き手の逆突きで、である。しかし藤田は宙空に浮いたレンガを普通に立った、いや、やや三戦立ち気味ではあったが利き手ではない左拳で、しかも引き手からではなく下げた手からほとんどノーモーションで、であった。あれがワンチンイパンチとでも言うのか。
「きっと何かまた変なトレーニングでもしているにちがいない」そう思った木下は練習後、バレー部の友人に会うつもりで向った体育館横のトレーニングルームにそっと近づいた。やはりいた。藤田だ。思った通り見慣れない筋トレをしている。一見拳立て伏せのように見えたがよく見ると少し違う・・・・・・いや全然違う。なんだあれは?やつは何をやっているんだ?!藤田が出て行った後木下が同じ事に無謀にも挑戦し、悲劇に見舞われた事は言うまでもない。その日以来、両手首に湿布を巻きシャーペンすらろくに握れなくなった木下は授業のレポート提出すらままならなくなる。長年かけて作り上げてきた見事な木下の拳ダコがむなしく見えた。
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